12-25.06.26 はじめて1日一人で過ごした日

旅のエッセイ
  このエッセイは、13年前に書いた旅の日記を、現在の私が振り返りながら綴っている連載です。
  当時の彼(いまは元夫)と一緒に出た、東南アジアからインドまでの貧乏バックパッカー旅。
  あの頃の自分に、今の自分の言葉を重ねていくような、ふたつの時間をめぐる記録です。

12-25.06.26 はじめて1日一人で過ごした日

私はもともと日本でも、大きなお金は節約するけど、小さなお金を節約するのは面倒なタイプ。
「どっちのスーパーのが30円安い!」とか、「これはマツキヨで買ったほうが安い!」とか、探すほうがめんどくさいと思っちゃう。

彼は、同じものをいかに安く手に入れるかを追求するタイプ。
だから日本にいる時も、時々そのこだわりに疲れてしまうことがあったけど、こっちに来てからはさらに拍車がかかっている気がする。

「たった5バーツのためにどれだけ歩くの!」って、ついイライラしてしまう。
でも長期滞在を考えたら、そういう節約こそが大切なのかもな、とも思う。
私の頭は、まだ現地価格に慣れていないのかもしれない。

今日は私は出かけず、宿でお留守番。
彼は両替とリュックを探しに一人で外へ。私は宿にあった沢木耕太郎の『深夜特急3』を読んでのんびり。
生理前だからか、毎日一緒にいるからか、旅のストレスなのか、すぐにイライラしてしまう。ひとり時間、大事だな。

でも、なかなか彼が帰ってこなくてちょっと心配…。
カオサンで安い宿が見つからなくて、結局またP.Cゲストハウスに泊まっている。例の、桶で水をくむトイレの安宿。

ここは日本人が多くて、今日1日で顔を合わせただけでも7人の日本人に出会った。
日本だと「仕事辞めて放浪」なんて考えられないけれど、ここではそんな人が普通にいる。
短期バイトでお金をためて、旅して、また稼いで、また旅に出る。
安宿ばかりだから、バカンスの旅行者にはほとんど会わない。

それでも、信じられないような体験を笑って話している。
そういうの、なんだかいい。

日記がどんどん長くなっているのは、彼がまだ帰ってこないから。
続きが長くなっていく。 スマホを持っていても、Wi-Fiがなければ連絡は取れない。
今さらながら不便だなぁ。一緒に行けば良かった。

夕方になると暗くなってきて、やっぱり心配。
バスが全然動かなくなるほどの渋滞に巻き込まれてるのかもしれないけど…。
普段なら「ちょっと遅れるね」とLINEひとつで済むことなのに。

…まだ帰ってこないので、日記は続く。

昼間、変な出来事があった。
宿の溜まり場で、仲良くなった人たちと4人で話していたら、突然怖い顔をした若者がつかつかと歩いてきて、彼に向かって叫んだ。
「なに見てんだよ!文句あるなら言えよ!お前だよ!朝からじろじろ見やがって、こっちもずっと見てんだぞ!」

……私は初めて見る顔の人だった。何があったのか分からないけど、私は怒鳴り声がすごく苦手。
その声を聞いた瞬間、お腹が痛くなった。
アユタヤからの帰りの電車でも、夫婦喧嘩の怒鳴り声で具合が悪くなったくらい。
トラウマがあるのか、そういうものに触れずに育ってきたからこそ怖いのか…。


この後、彼が何時に帰ってきたのか、なんで遅かったのかは日記にも残っていないし、私も覚えていない。
だけど、これからも何度もこういうことは起きる。
私は「もしも」のことをたくさん考えて、不安でいっぱいになるけど、彼は大抵けろっと帰ってくる。

旅では、天気や気分次第で一日中宿にいることもある。
そういう日はよく本を読んだ。
日本人が多い安宿には必ずと行っていいほど『深夜特急』が置いてあったし、日本から持ってきた電子辞書には太宰治や漱石も入っていた。
そういう静かな日、宿の空気や外の天気も、不思議と記憶に残っている。

明日の日記はこちらに続く

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