12-25.07.09『ホーチミンの郵便局と宿のおばちゃん』

旅のエッセイ
  このエッセイは、13年前に書いた旅の日記を、現在の私が振り返りながら綴っている連載です。
  当時の彼(いまは元夫)と一緒に出た、東南アジアからインドまでの貧乏バックパッカー旅。
  あの頃の自分に、今の自分の言葉を重ねていくような、ふたつの時間をめぐる記録です。

12-25.07.09『ホーチミンの郵便局と宿のおばちゃん』

妹の誕生日が近いのと、ホーチミンの中央郵便局が有名らしいということで、家族に手紙を出すことに。
『地球の歩き方』には1ドルくらいで送れるとあったのに、実際には2ドル以上かかってしまった。

それだけならまだしも、目の前で手紙を放り投げられて、すごくモヤモヤした。

いい人ももちろんいるのだけれど、私自身がまだベトナムに対して心を開けていないから、うまく楽しめていない。
いかんなぁ……と思う。

今までは、嫌なことや辛いことがあっても、それでもこんないいところもある、とその国の良さが見えていた。
でも、ホーチミンはとても疲れる。
もともと東京出身のくせに、都会にいるとぐったりしてしまうタイプだから、疲れの理由は「都市」そのものかもしれない。

でも、泊まっていた宿のおばちゃんは本当に素敵な人だった。
ゲストハウスと自宅がつながっていて、夜になると子どもたちとも顔を合わせることができる。

この通りは危ないから気をつけてね、しっかり荷物を持つのよ、など、
英語は一切話せないから、ジェスチャーでいろんなことを教えてくれる。
そのひとつひとつが、あたたかくて心に沁みた。

Wi-Fiはまったく入らなかったけれど、そんなことはどうでもよくなるくらい、
満たされた滞在だった。

最終日、荷物を預けていたので取りに戻ると、おばちゃんが名残惜しそうに少し話しかけてくれた。
もちろん、言葉は通じない。
「どこの国から来たの?」という質問だと気づくまでに、ずいぶん時間がかかってしまった。
でも伝えたい気持ちは、ちゃんと伝わった気がして嬉しかった。

最後に、気をつけてねと、ハグ。
「See you」と笑顔で見送ってくれた。
またねって言葉が、こんなに嬉しいなんて。

おばちゃん、ありがとう。

今日は初めての寝台バスで、ニャチャンへ向かう。
ニャチャンでは、もう少しベトナムに心をひらけるといいな。
当時の私は、「都会にいると疲れる」と思っていたらしい。
今も、好きな街と苦手な街はあるけれど、都会=疲れる、とは思わなくなってきた。
もしかしたら、少しずつ慣れてきたのかもしれない。

宿のおばちゃんやご家族との、ほんのわずかな会話の時間。
言葉としてたくさんは交わせなかったけれど、それでも通じたと感じられた一瞬は、今も大事な記憶として残っている。

旅をしていると、ずっと気を張ってしまう。
「騙されてなるものか」と、心を閉ざしていた私たち。
そんな私たちに対しても、やさしく接してくれる人がいた。

自分が逆の立場だったら、どうだろう。
疑ってかかってくる人に、私は同じようにやさしくできるだろうか。

明日の日記はこちらに続く

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