12-25.06.14『出発前夜。母のピカタ』

旅のエッセイ
ついに、出発の前日が来た。

彼からは、何度も電話がかかってきた。
最初は「旅が初めての私を気遣ってくれてるんだ〜♫」なんてのんきに思っていたけど、あれ? もしかして彼自身もそわそわしてるのかも?
そんなふうに感じるくらい、何度も連絡が来た。

母は、今日になって急に落ち込み始めた。
ちょっと心配になる。 出発前の最後の晩ごはん、私が好きだったポークピカタを作ってくれようとしたけれど、「作り方、間違えちゃった」って落ち込んでいて、その姿に、胸がぎゅっとした。

今まで、旅に出ることについてあまり突っ込まれることもなかったし、現地の状況が分からないからこそ、心配だろうと思って、彼と話せるような機会をちゃんと作ったのに、母はあまり質問もしていなかったから、「大丈夫なんだ、そんなに気にしていないんだ」って、私はどこかで思い込んでいた。

でも本当は、こんなに心配をかけていたんだ。
ようやく、それに気づいた。

ちゃんと帰ってこよう。
そして、楽しんでこよう。


こどもの頃の私は、
「いいお姉ちゃん」や「手のかからない子」でいることに、一生懸命だったと思う。
母はPTAや地域の活動に熱心で、父はミニバスのコーチ。そんな「誰かのために頑張る」親の背中を見て、私は「迷惑をかけてはいけない」って、いつもどこかで思っていた。

大学生になる頃には、その反動で好き勝手するようにもなったけれど、それでも「旅に出る」という決断は、自分の中でかなり大それたことで、親に打ち明けるときは、やっぱり緊張した。

「そんなに長く旅に行くなら、結婚するってことだよね?」そんなふうに私から彼に確認したりして、私はまだ「結婚」という形にこだわっていたし、それを約束することが、親への義理立てでもあるように感じていた。

大それたことをしてる自覚があったから、「なんでもないこと」のように振る舞おうとしていた。
親も変わらず日常を送っているように見えて、「私がどこにいようが気にしていないのかも」とまで思ったりもした。

でも今なら、あの沈黙にも、見せなかった表情にも、たしかに愛があったのだとわかる。

あのとき、何も言わずに送り出してくれた親に、私はきちんと感謝を伝えられていただろうか。

母が作ったポークピカタは、今でも私の大好物。
ピカタを素直に喜びながら、そっとその時の感謝を伝えてみようかな。

明日の日記はこちらに続く

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